鍵を握る政党交付金150億円

 2009年の民主党には今の希望の党以上の勢いがあり、具体的な「マニフェスト」もあったが、民主党政権が崩壊したあと国民の信頼は失われ、「民進党」と名前を変えたが、政党支持率は8%程度という状況が続いてきた。

 このまま選挙になると、小選挙区では生き残れない。かといって共産党を含めた「野党4党共闘」では、政権を取る展望はまったくない。したがって政権交代を目指すなら、民進党が保守・中道勢力と連携するしかないことは分かっていた。

 前原誠司氏も今年の代表選挙でそういう方針を打ち出したが、党内には異論も多い。地方には共産党を含む野党共闘で勝てる民進党候補もいて、候補者調整も始まっていた。それを否定しても、民進党の「右」のパートナーがいない状況では動けなかった。

 そこに現れたのが希望の党である。中身がないことは最初から分かっていたが、マスコミは中身より派手な入れ物に集まる。今年8月の段階で、前原氏は「いま解散したら小池新党は衆議院で40~50議席取る」と読んでいた。90議席そこそこの民進党が生き残るには、これしかないと考えていたようだ。

 希望の党の弱点は、カネである。候補者は「希望の塾」に4000人が集まったが、全国の小選挙区にすべて候補を立てて戦うには100億円以上の資金が必要だ。他方、民進党に交付された政党交付金は今年87億円。今まで蓄えた資産も含めて、約150億円あるという。人気はあるがカネのない小池新党と、カネはあるが人気のない民進党がともに生き残る手段が、両者の合併だった。

 ここまでは早い時期に、両党が合意したと思われる。企業買収なら、実績も資金もある民進党が存続会社になり、希望の党を吸収合併するのが常識だが、そこに大きな障害があった。民進党の左派である。

小池氏の「レバレッジ」で左派を切り捨てる

 前原氏と小池氏は、1993年に細川政権が誕生したときの日本新党の同窓生である。当時は社会党が、連立与党で最大の抵抗勢力だった。特に村山富市委員長になってから小沢一郎氏との対立がひどくなり、細川首相の辞任後の連立離脱騒動で政権は空中分解した。

 小池氏はその後も新進党から自由党まで、小沢氏とともに歩んだ。思想的には安倍首相より「右」ともいえるが、前原氏とそう大きな違いはない。特に憲法や安全保障については、安倍首相と小池氏と前原氏の立場はほぼ同じだ。

ところが国会では「安保法制反対」の野党が不毛な論戦を繰り返してきた。ここで左派を切ると、民進党が分裂するおそれが強い。この状況で左派を切る方法は、企業のリストラを考えればいい。

 

 老舗の中堅企業A社が赤字部門を切りたいが、「人員整理する」というと労使問題になってしまう。こういうとき使われるのが企業買収(LBO)である。A社はバブルで株価の上がっている投資ファンドB社と合併するが、このとき存続会社をB社にする。

 B社には経営内容は分からないが、どの部門が赤字かはA社の経営者は知っているので、それをB社に教え、B社はA社の赤字部門を売却する。このとき労働組合がA社の経営陣に抗議しても、存続会社はB社なので、どうにもならない。

 ここでA社を民進党、B社を希望の党に置き換えてみると、今回の「身売り」の意味が分かる。小池氏は「民進党と丸ごと合併はしない」といい、議員を一人ひとり選別するという。この基準は「憲法と安全保障」なので、左派は希望の党に入れないだろう。

 つまり前原氏は、小池氏という「レバレッジ」を使って左派を切ったのだ。民進党の中では「憲法改正」も「安保法制容認」もタブーだが、小池氏はそれを踏み絵にできる。彼女に選別させれば、足手まといだった左派を一挙に「リセット」できる。

 民進党は消滅するが、前原氏は「民進党は過渡的な政党だ」と割り切っている。政党はしょせん入れ物であり、政権を取るためには消滅してもかまわない。ただ正式に「解党」すると政党交付金を返還しなければならないので、彼がひとり党に残るという。

 これは民進党執行部や両院議員総会で意外にあっさり了承されたので、彼個人の考えではなく、執行部の方針だろう。この奇抜な手法を思いついたのが誰かは分からないが、小池氏と前原氏に共通するのは小沢氏との関係である。

 こういうきわどい「一発逆転」は小沢氏がよく使った手法だが、細川内閣以外はすべて失敗した。今回の「吸収合併」も吉と出るか凶と出るかはまだ分からないが、少なくとも日本の歴史には前例のない政治的イノベーションであることは間違いない。